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二重巻線ヒューズ開発秘話

技術ペーパー

日本のエレクトロニクスの夜明け、1960年代に始まったと考えてもよいのではないか。三種の神器とは、テレビ、冷蔵庫、洗濯機を指した。その中で、白黒テレビは大口径が進み、カラーテレビが生まれつつあった。全く新しい技術が生まれて育っていった時期である。回路の構成は当然複雑になるので、トランジスター、IC、LSIが開発されつつあった。白黒テレビからカラーテレビへと、消費電力は当然大きくなっていった。回路を構成するコンデンサーも大きくなり、数も増えていった。

セット回路が出来上がり、テスト回路に入るスイッチをONすると、回路の全てのコンデンサーの充電が起きる。まったくの空の状態であるため、充電する電流の総和は60Aにも達した。その時間は2msから7msくらいで、さほど長くはなかったが、エネルギーは大きかった(これをラッシュカレントと表現する)。SOCのヒューズは、当時、世界で初めて開発された、オールトランジスターを使用したソリッドステートと称する白黒テレビに使っていただき、大きなスタートを切った。

ヒューズは、そのセットの通常の使用状態で切れては困るし、事故電流が流れた際に、発火、発煙等が生じては困る。ヒューズは、流れている事故電流を遮断して、セット回路を守る役目を果たさなくてはならない。あらゆる回路に流れる電流は、時間と電流の値を表した電流時間特性によって表される。それまではヒューズは、同一金属をエレメントにしていた。ヒューズの特性も同じように電流時間特性(以下ITカーブと称す)で表すことができる。当然のことであるが、同一金属は物理的特性も同一であるから、エレメントを構成する金属によってITカーブ特性はそれぞれ異なる。

前述のラッシュカレントが流れても溶断しないエレメントは、あらゆる金属を探してもなかった。そこで、同一金属ではなく合成したら可能ではないかということになり、合金をテストすることになった。ところが、サンプルを作ろうとしたところ、金属メーカーから、最小ロットは300Kgと云われ困ってしまった。いろいろと考えた末、異なった金属の種類のエレメントを組み合わせてみてはということになり、これらを使用した2重巻線のヒューズができた。ラッシュカレントでは見事に溶断せずに、要求される特性を満足するヒューズが出来上がった。世界のデファクトスタンダードになり、結果としてSOCが特許をとることができた。