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ヒューズのすすめ

技術ペーパー

ヒューズのすすめ

ヒューズ動作とその原理

電気回路にもしも予期せぬ大電流が流れると、回路が壊れ、あるいはまた、発煙・発火事故が起きてしまいます(図1(a))。
そんなことがないようにするにはヒューズ(図2)を使うという方法があります。
回路が正常に動作している間、ヒューズは低抵抗な導体と見なせます。
しかし、設計で定めた電流の閾値を超える大きな異常電流が流れると、ヒューズは溶断して回路、配線、電源の安全を守ります(図1(b))。
これを「ヒューズの動作」と呼びます。

図1 予期せぬ大電流が流れて回路が壊れ事故に
なるケース(a)と、ヒューズが溶断して回路を
守るケース(b)のイメージ図

図2 ヒューズ

ヒューズの動作原理はどうなっているのでしょうか。
「ヒューズは低抵抗な導体と見なせます」と書いたところにそのヒントがあります。
ヒューズの電気抵抗は負荷回路の電気抵抗よりは大分低いので負荷回路から見れば、平常時のヒューズの電気抵抗は確かに無いも同然、低抵抗な導体と見なせるのですが、それでも、ヒューズの電気抵抗は同じく導体である電線よりは高く設計してあります。

抵抗がある導体に電流が流れると熱が発生します。
これをジュール熱と呼びます。
ジュール熱は電流の二乗と抵抗の積に比例します。
そうはいっても、発生した熱は周囲に逃げますので、ヒューズを正しく選択し通常の大きさの電流が流れている限り、ヒューズが異常に高温になったりすることはありません。

しかし、予期せぬ大電流が流れた際は状況が違います。
その際には、電流の二乗に比例する大きな熱が発生し温度が上がってきます。
また、温度の上昇とともにヒューズの電気抵抗が高くなることでさらに発熱が増大して、温度上昇に拍車がかかります。
なぜなら、上述の通り、発生するジュール熱が電気抵抗に比例して大きくなるからです。

これを模式的に青線で示したグラフが図3です。
縦軸は温度で、水色は室温、縦軸上限の赤色はヒューズが溶断する温度を表しています。
横軸はヒューズに流れる電流です。
電流が小さくて温度が室温に近い水色の領域に留まる電流範囲が「正常領域」です。
一方、大電流が流れてヒューズが溶断し電流を遮断する電流範囲が「ヒューズ動作領域」です。
「中間領域」は「正常領域」と「ヒューズ動作領域」の中間の電流範囲で、直ぐにヒューズが溶断するわけではありませんが、繰り返し、あるいは、長時間流れれば、この領域内でもヒューズが溶断することがあります。

図3 ヒューズの温度(縦軸)と流れる電流(横軸)の関係(青線)の模式図

もう一度図1(b)に戻って考えて下さい。
電気エネルギーの供給元は電源です。図1(b)でヒューズを電源と回路の間に入れてあるのは、危険を元から断つためです。
つまり、想定外の大電流が流れた際に電源と回路をヒューズ動作で迅速に切り離して、回路の安全を守るのです。

一つの電源から複数の回路に電気を供給する場合には、図4に示すように、電源のすぐそばだけでなく、回路の分岐点の先にも、それぞれの回路専用のヒューズを入れます。
入れるヒューズを正しく選択しておけば、もし回路1に想定外の大電流が流れた場合に、分岐点と回路1の間にあるヒューズf1が溶断することにより、電源のすぐ近くにあるメインのヒューズf0が溶断せずに済むことで、回路2や回路3への通電を維持したままにすることができるのです。
これは、例えば自動車に搭載の補助的な機器(回路1)が故障しても、自動車の走行を司る別の重要な機器(回路2まはた回路3)は動作した状態のままに保ち、あるいは、もっと一般的に、一つの設備に故障があっても他の設備まで停止してしまうことが無いようにするために役立ちます。
また、回路1の故障による異常電流がヒューズf0を溶断するだけ流れない場合、f0より小さな定格電流のf1が溶断して回路1を保護することができます。

これらの効果を発揮させるためには、上記で下線を引いた「ヒューズを正しく選択」が実は重要なポイントで、異常な電流が流れた際に「分岐点と回路1の間にあるヒューズf1」が「電源のすぐ近くにあるメインのヒューズf0」よりも先に溶断するように選択することが必要です。

図4 一つの電源に複数の回路がつながっている場合のヒューズの使い方の例

抵抗やコンデンサのようなヒューズ以外の回路部品の「定格」はそれらの部品を壊さずに使用できる範囲の上限を示しています。
一方、ヒューズの「定格」の一つである「定格電流」は、その何倍かの電流を流せば既定の時間で溶断することを示しています。
ヒューズの動作とは、溶断する、つまり、壊れることであることから、壊れることと壊れないことのどちらか一方に重きを置き過ぎるとヒューズの役割が正しく果たせません。
ヒューズを「正しく選択」できるように、弊社では波形評価サービスなどを行っていますので、担当まで遠慮なくお声掛けください。

 

ヒューズと他の異常電流保護デバイスとの比較

回路を異常な電流から守るデバイスはヒューズ以外にもいろいろとありますので、ここでは、代表的種類とそれぞれの機能・特徴をまとめました(表I)。
目的と用途に合わせて最適なデバイスを選んで使いましょう。
選択の際に考慮すべき要素は、サイズ、コスト、要求仕様と製品ラインアップなど数多くあります。

表I 異常な電流から回路を守るデバイス

 

 

ヒューズの特色とメリット

(1)高い安全性

ヒューズは構造がシンプルです。
もしヒューズが入っていなければ非常に大きな電流が流れるような短絡事故が起きた際には速く動作し、電流値が最大値まで立ち上るよりも短い時間でヒューズが溶断して回路に流れる電流を低く抑えることができます。
これをヒューズ用語で「限流作用」と呼び、これを模式的に示したのが図5です。
横軸は時間、縦軸は電流を示しており、青線はヒューズがもしなかった場合に流れるはずの電流、赤線はヒューズが溶断して限流が起きる場合に実際に流れる電流を表しています。
安全回路にヒューズを利用することにより、限流作用の恩恵を受けて回路へのダメージを最小限にとどめることができるのです。

回路ブレーカーが動作して大電流を遮断した場合に、ブレーカースイッチを元に戻して再使用することがよくあります。
しかし一度大電流が流れた回路ブレーカーの再使用がいつも安全とは限りません。
なぜなら、ブレーカーが動作したということは、回路に何らかの異常が考えられます。
また一度流れた大電流により外観からは分からなくてもブレーカーの一部が既に損傷してしまっているかもしれないからです。
下手をすると大事故にもなりかねません。その点ヒューズは安全です。
ヒューズは一度切れれば使えなくなり、決して再使用することが出来ないからです。

図5 ヒューズによる限流作用の模式図

(2)多様な選択肢

ヒューズにはサイズと形状や、電圧・電流・遮断の定格が異なる豊富な製品ラインアップがあります。
その一部を図6に示します。
どの製品を選択するかに迷う際には、弊社ホームページに掲載の「技術ペーパー:ヒューズ選定手順」を活用していただくか、弊社営業担当までお問い合わせください。

(3)小さなサイズで低コスト

ヒューズは構成部品の総数が少なくシンプルな構造をしていることは(1)で既に述べました。
その結果、電圧、電流、遮断定格の割にサイズが小さい、そしてコストも割安であるというのもヒューズの重要な特徴です。
これを活かせば、回路を組み込む製品をコンパクトに、そしてコストを抑えて製造することができます。

図6 ヒューズ製品バリエーションの一部

 

技術データによるバックアップ

安全回路設計に役立てていただけるように、弊社ヒューズの製品仕様書には、定格値以外にI-tカーブ、I2t-tカーブ、温度リレーティングカーブなどの詳細なデータを掲載してあります。
これらデータは一連のヒューズ試験設備(図7)を使用して厳正に取得しました。
これら試験設備の詳細については「技術ペーパー:試験設備のご案内」をご参照ください。
また、製品仕様書に掲載されている以外の追加データが必要な場合には弊社担当者までご相談ください。

設計変更で回路電流が変更となる場合に、安全回路設計をそのままにしていると、トラブルの発生原因となります。
製品シリーズの種類と定格値が豊富(図6)なヒューズを採用していれば、ヒューズの製品仕様データを参考にして使用するヒューズの定格を変更するなどの方法で万全に安全を担保することができます。

図7 ヒューズ試験設備

 

お客様へ

いかがでしたか。
設計する回路にどの部品を選ぶかにつき、お役に立てば幸いです。
この技術資料をお読みになりヒューズに興味を持っていただけたなら、そして、検討を進めるためにヒューズのもっと詳しい情報が必要でしたら、弊社営業担当までご遠慮なくお声掛けください。